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 平成19年度 校内研修の際に使用した資料です。
H18年度 5年生 
あい君の作品

校内研究資料 「脳科学研究から学ぶ」

1 前北海道大学教授 澤口俊之

 @ 脳は体の各部分と違って早期に発達を遂げます。8歳で脳全体の95%の部分で成長を終えてしまうと言われています。そして、脳のはたらきを示す知性(知能)は、8つの知性から成り立っています。・言語的・空間的・論理数学的・音楽的・絵画的・身体運動的・社会的・感情的の8つです。  日本の学校の教科構成と似ていて驚かされます。
 A 8つの知性は、脳のそれぞれの部分が担当しています。しかし、脳の中には、この8つの知性と関係ない部分があります。それは額(ひたい)のすぐ後にある「前頭連合野」という部分です。ヒトの「前頭連合野」はチンパンジーなどの動物と比べて大きく発達しているのが特徴です。
 B この「前頭連合野」は、8つの知性をあやつったりコントロールしたりしています。8つの知性がいくら高くても、「前頭連合野」が育っていなければ知性はよく働きません。「前頭連合野」をいかに育てるかが重要です。
 C 最近、テレビゲームやコンピュータゲームが「前頭連合野」をまったく育てないことがわかってきました。その一方で、読書中には「前頭連合野」が活発に働くことがわかってきました。単なる読書よりも速読の方がもっと効果的に「前頭連合野」を発達させると考えられています。
 D「前頭連合野」を発達させ方法には、読書を含めた言語活動を盛んにする他に、次のようなことがあげられます。手や指を積極的に使うこと。音楽や絵画などを通して右脳を働かせること。
 E ただ快感が伴わないと「前頭連合野」はよく働きません。好きなことをするのが第一条件です。


2 東北大学教授 川島隆太

2−1【なぜ、今、脳科学なのか】
@ 従来は、大脳生理学で脳の研究はなされてきました。しかし、ヒトで実験することはできないので、ネズミやネコ、せいぜいサルが対象でした。しかし、これらの動物の脳には「前頭前野」はほとんどなく、「前頭前野」のはたらきはよくわかりませんでした。(15年位前まで)
A 人間にとって、「前頭前野」が非常に重要な役割があるらしいとわかったのは「前頭前野」に障害を受けた人の例からでした。
B 磁気の力や光の力を使って脳の働きを写真に撮り画像化する装置(MRI)を使って調査研究することによって多くのことが明らかになってきました。


2−2【前頭前野とは】
@ 私たちの大脳は場所ごとにまったくちがう仕事をしています。「おでこ」のすぐ後には「前頭前野」とよばれる部分があります。人間にだけ特別に発達している部分です。
A この「前頭前野」は、記憶や学習をつかさどったり、創造力や自制力、コミュニケーション能力を発揮したりします。脳の司令塔であり、子どもの「生きる力」の源でもあります。
B サルの実験では、前頭葉の一部を壊すことをします。すると、せわしなく落ち着きなく動き回るとようになります。人間の多動性障害(ADHD)と同じ症状を呈するようになります。また、一つのことに固執して他に興味を示さない自閉症と同じ症状を呈するようにもなります。多動性障害(ADHD)も自閉症も前頭前野の機能障害といえます。

2−3【前頭前野の働きを活発にするもの】
@ 「前頭前野」を育むにはどうしたらよいか、「前頭前野」の働きを高めるためにはどうしたらよいかが科学的に明らかになってきました。
A その一つは、「読み、書き、計算」です。1+2のような簡単な計算と54÷(0.51−0.19)のような複雑な計算を比べると、簡単な計算の方が「前頭前野」は活発に働きます。複雑な計算では、左脳の一部、言葉を扱う部分が働きます。読書も「前頭前野」を活性化します。音読すると効果は驚くほど高まります。「書く」という作業もたいへん有効です。
B 二つめは、コミュニケーションです。他者と話をしたり共同作業をするということです。親子のコミュニケーションは強烈に「前頭前野」に働きかけをします。これらの場合、互いの視線を合わせることが重要です。
C 三つめは、指を使って何かをつくるということです。単に手指を使うだけでは無意味です。何かをつくるという目的があれば「前頭前野」は驚くほど活性化します。


2−4【読み、書き、算と前頭前野】
@ 「読み、書き、計算」をしただけでは、その能力しか上がらないのではないかという疑問があります。しかし、健康な成人を対象に一ケタの計算や音読を一ヶ月毎日したところ、記憶力が2〜3割アップしました。計算や音読が「前頭前野」の能力の一つである記憶力を高めたのです。
A さまざまな実験から、計算や音読が創造力を鍛えるトレーニングとして有効であることも実証されています。
B 音読や単純計算をするだけで脳が活性化するのはなぜか、はっきりとはわかっていません。しかし、人間と他の動物の比較などから、音読や単純計算は脳を働かせる遺伝子のスイッチをONにする行為ではないかと考えられています。
C 脳(前頭前野)を鍛えれば、その働きは目に見えるかたちで強化されます。


2−5 【前頭前野の働きを阻害するもの】
@ 「前頭前野」を活性化しないものにはテレビ、ゲーム、漫画があります。テレビは教養番組を見ていても活性化しません。あくまでもリラックスするための道具です。ゲームの中には、「前頭前野」が働くものも一部あります。ただ、ゲームをした後では「前頭前野」の働きは抑制されます。ゲームをした後に勉強しても脳は働かない状況に追い込まれます。
A 音読等は5分も行えば疲れて続けるのが難しくなります。脳を使っているからです。テレビは何時間も疲れずにみることができます。脳を休ませているからです。
B IT機器はこれまでの人間の歴史に登場してきませんでした。IT機器を使うと脳の負担は軽くなっていきます。そのことは脳にとって良いことかもしれませんが、どっぷりつかることは問題です。
C ITを利便性だけで使用するのは危険性も含んでいます。IT開発に脳科学を取り入れて脳の反応を見ながらハードやソフトを開発する必要があると思います。脳が退化しない方向に進むべきです。


2−6【脳科学と学習】
@ 英単語を何もしないで覚えるのと、音読や計算をした後に覚えるのを比べると、音読や計算を取り入れた方が明らかによい結果がでました。いわゆる、音読や計算のウオーミングアップ効果が認められました。
A 音楽科では楽器の演奏が効果的でした。手を使って音楽をつくるからです。合唱ではリラックス、アカペラの独唱では活性化しました。家庭科では料理をつくることに注目しています。料理が脳を鍛えるという科学的データをもっと認知させたいと思います。
 
2−7【脳科学と学校教育】
@ 文科省から「特別開発」という研究指定を受けると、法律等の規制を受けずに教育課程を編成することができます。現在の特別開発研究指定校の多くは、脳科学の成果を学校教育に生かす試みを行っています。
A 県内にも特別開発の指定を受けている学校があります。「読み、書き、算」や「そろばん」などに力を入れています。先日、そこの校長先生に会いました。学校全体の知能検査の結果が確実に伸びたそうです。特に、速さを競いながらの「読み、書き、算」や「そろばん」が効果的であったようです。興味ある話です。
B いずれにしても、脳は鍛えれば伸びるというのは事実のようです。今後、教育現場においても脳科学の研究成果を生かした取組が見られるようになるのは間近だと思われます。


2−8【その他】
@ 認知症の方に「読み、書き、計算」のトレーニングをしたら、認知症の症状が改善されたという結果も出ています。認知症(痴呆症)には2つのタイプがあって、一つは血管が詰まったり出血したりすることが原因の脳血管型認知症で、他の一つは神経細胞の数が減るアルツハイマー型認知症です。このうち、音読や単純計算で認知症の改善がみられるのはアルツハイマー型認知症です。音読を始めて1週間で尿意を感じるようになり、1ヶ月で3割の人のオムツがとれたという実績があります。
 A 脳科学の研究を進めていくと、江戸時代の寺子屋教育が脳の発達に最も良いのではないかと思います。「読み、書き、そろばん」教育です。寺子屋式教育を受けた明治初期の人たちは、30代で海外に出て、本を読むだけで英語を話すまで能力を高め、国と国の交渉を行いました。明治人たちが記憶力だけでなく、発想力や創造力においても非常に優れていたことがわかります。
 夏目漱石や福沢諭吉も「読み、書き、そろばん」で育っています。日本には、すごい先人の教育の知恵があるのに、なぜ忘れてしまったのかと、脳のデータを見ていて強く感じます。
B 脳が活発に働けば働くほど脳内の血液の流れはよくなります。すなわち音読や計算をすることで脳の血流がよくなり、脳細胞は血液中の酸素とブドウ糖を栄養にして活動します。 朝食をとらないとブドウ糖が補給されず、前頭前野の働きは悪くなります。授業に対する集中力や我慢して授業を受ける抑制力も働きません。
C 右脳の働きが注目されていますが、右脳・左脳という分け方をするのは日本だけで国際的にはまったく通用しません。「右脳人間」「左脳人間」という分け方は現在の脳科学からみればまったくナンセンスなことです。